「俺は反対だ。国民は牛のゲップ税の導入なんて望んでいない」
「いや、違う。ゲップ税は、今や国民の大きな支持を得ているんだ」
「なんで国民が賛成していると言い切れるんだ?」
「僕の手元に、アンケートの結果があるからさ」
「なんだと、俺もだ」
「その調査では、誰が誰にアンケートをしたんだい?」
「ある農業組合が、ウシを育てている農家30人に聞いたところ、大多数がゲップ税に反対だった」
「ふん、そんな小人数、しかもウシ農家だけなんていう偏ったアンケートで、国民の本当の意志がわかるもんか。Z新聞が国民3000人に行った調査によれば、賛成が過半数を超えたそうだ」
「なんだと・・・」
試合の中では、お互いに正反対の主張が真っ向からぶつかり合うことが少なくありません。こういった場合、このままでは水掛け論になってしまうので、双方の主張を支える根拠を比べて、どちらがより信頼できるのかを争うことになります。
主張がぶつかり合った状態から、自分たちの主張を押しとおすには、相手の根拠よりこちらの根拠の方が優れていることを示してやらなければなりません。根拠の比較には、色々な方法がありますが、その中でも代表的なパターンを5つほど紹介します。
■理論と事実
議論の対象によりますが、普通は机上の空論である理論より、実際に試した結果である事実の方が信憑性が高いと言われています。
A:「車の数が減れば、歩行者と車がぶつかる確率も減るし、交通事故は少なくなるだろう」
B:「実際にガソリンの値上がりで車の利用が減ったとき、渋滞がなくなってスピードを出す車が増えたため、交通事故はかえって増えた」
→この場合は、実例であるBの方が信用できる。
■統計調査と1回きりの事実
同じ事実であっても、1回きりの事実よりも、それをいくつも集めた統計調査の方が信憑性が高い、とされます。
A:「わたしの叔父さんは、毎日50本以上タバコを吸っていたが、95歳まで健康に生きて老衰で亡くなった。タバコは健康によくないなんてウソだ。」
B:「予防ガン学研究所が25万人を調査した結果、タバコを吸う人は吸わない人に比べ、肺ガンになる確率が11.5倍も高かった。」
→この場合は、1回きりの事実であるAより、統計調査であるBの方が信用できる。
■現状の分析と、プランを実行した後の分析
プランを実行することで、現状が大きく変わる、ということがよくあります。このため、今の状況に依存した主張よりも、実際にプランをとった後の影響をきちんと考えた主張の方が、より信頼できる、ということになります。
A:「統計調査によると、小学生のほとんどは英語に興味がない。だから、小学生から英語教育をしても無意味だ」
B:「試験的に英語教育を導入しているクラスでは、過半数の生徒が、英語が楽しくなった、と答えている」
→この場合は、現在のAの状態から、プランをとることで生徒の意識が変わったと考えられるので、その影響を考慮したBの方が信用できる。
■理由付けの深さ
「主張と根拠」の章で触れたように、相手の根拠を否定するのは反論の基本です。向こうの根拠をふまえた上で、さらにもう一段掘り下げた理由付けを行って主張を否定できれば、比較の際に非常に有利になります。
A:「この新しいタイプの車は、コンピューターを搭載しているから安心だ」
B:「コンピューターが暴走する危険が否定できないので、やはりこの車の安全性は保証できない」
→Aの主張は、「コンピューターがついているから」という事が根拠になっているが、Bはさらにその根拠をもう一段掘り下げて、「コンピューターそのものが暴走する危険がある」と反論している。このため、より理由付けの深いBの方が信用できる。
■証拠資料の質
資料を引用する際には、著者の肩書き・年代などが必要になりますが、これらによほどひどい差がある場合には、比較の理由になりえます(場合によりますが、大学教授とジャーナリストなど、多少の差ではあまり問題になりません)。
A:1928 年 「100 年後には必ずタイムマシンが実現されているはずだ」
B:2002 年 「物理学的に、人間が(少なくとも生きたまま)過去へ戻るのは不可能です」
→Aの資料は古すぎて現在に適用できるのかどうか疑わしいので、この場合はBの方が信用できる。
A:外務省報道官「外務省では、一切不正行為はないと断言いたします」
B:N新聞「外務省職員が、10 年以上にわたり機密費を流用していたことが、東京地検特捜部の告発により明らかになりました」
→Aは疑惑の当事者の発言であり、客観的な立場から報道できるBの方が信用できる。