ディベートって何でしょう? みんなで集まって話し合うこと? 言いたい放題の口げんか? なんとなく「議論を戦わせるんだな」とわかっていても、具体的なイメージを持っている人は少ないかもしれません。ディベートは、一言で表すと「第3者を説得するゲーム」です。ゲームなので、サッカーや将棋と同様、きちんとしたルールがあり、勝ち負けがあります。
この後のページで紹介するように、ひとくちに「ディベート」といっても、様々なスタイル・ルールが存在します。ただ、細かい違いはあるものの、どのスタイルでも根底にある考え方・基本的なルールは共通している部分が多いので、この章ではこうした特定のスタイルに偏らない、一般的なルールを解説していくことにします。
あとで紹介する例外(質疑やPoint of Information)を除いて、すべてのスピーチは正面の論壇に立って、ジャッジの方を向いて行います。説得の対象は対戦相手ではなく、ジャッジなんだということを意識しながら話すと効果的です。
実際の試合でも、肯定側は最初のスピーチでまずメリットを、否定側はデメリットをそれぞれ説明します。たとえば、「日本は原発を全廃すべきだ」という論題なら、

なお、反駁の段階に入ってから新しいメリット・デメリットや反論を出しても、相手に再反論の機会がほとんど残されておらず、不公平なうえに議論が深まらないことから、通常は「ニューアーギュメント」という反則となり、判定には考慮してもらえません。ただし、相手が直前のスピーチで新しく出してきた議論に対してだけは、反駁の段階に入っていても新たな反論をしていいことになっています。という流れになります。
逆にデメリットの場合には、
ということになります。
このままではわかりにくいので、もう少し具体例を見ることにしましょう。たとえば、論題が「ゴミの有料化」であれば、メリットは、
■メリット:「ゴミの減少」
a) 現状分析
いま、ほとんどの町ではゴミを出すのはタダ。従って、好きなだけゴミを捨てられる。
その結果、ゴミの量は増加の一途をたどり、以下のような問題が起こっている。
1、ゴミの埋め立て地が足りない。
2、焼却施設の能力を超えた量のゴミを無理矢理燃やしているので、温度が上がらず、ダイオキシンが発生している。
b) 発生過程
ゴミを有料化すれば、人々はお金を払いたくないので、できるだけゴミを出さないように努力する。
実際に有料化をした伊達市では、ゴミは大幅に減っている。
この結果、1のゴミ埋め立て地の不足は軽減される。
さらに焼却施設でも余裕ができるので、ゴミをしっかりと高温で燃やすことができ、2のダイオキシンの問題も解決する。
c) 重要性
1、ごみの埋め立て地がいっぱいになれば、あとはあふれるしかない。不衛生な環境では病気が流行しやすくなり、死者も出る。
2、ダイオキシンはたった1グラムで何万人もの致死量に相当する猛毒。これを出さないことは極めて重要。
同様に、デメリットは、
■デメリット1:「自家焼却の増加」
a) 現状分析
いま、ほとんどの町ではゴミを出すのはタダなので、人々は特に意識せず、ゴミを指定された回収場所に出している。
b) 発生過程
ゴミを有料化すると、人々はお金を払いたくないため、なるべく自分の家でゴミを燃やし、外に出すゴミを減らそうとする。
c) 深刻性
自家用の焼却炉は規模が小さいために十分に温度が上がらず、ダイオキシンの発生につながる。ダイオキシンはたった1グラムで何万人もの致死量に相当する猛毒で、これが民家のすぐ近くで発生する、というのは極めて危険。
■デメリット2:「不法投棄の増加」
a) 現状分析
いま、ほとんどの町ではゴミを出すのはタダなので、人々は特に意識せず、ゴミを指定された回収場所に出している。
b) 発生過程
ゴミを有料化すると、人々はお金を払いたくないため、法で定められた回収場所以外の場所にゴミを違法に投棄する。
c) 深刻性
不法投棄の増加は街の衛生状態を悪化させ、伝染病のまん延、ひいては死者の発生をもたらす。
という具合になります。
メリット・デメリットを互いに出した後は、基本的にそれに対する反論・再反論の応酬が続くことになります。なお、多くのスタイルでは、議論の証明の過程で、信憑性を高めるために専門家の発言を「証拠資料」として引用することが認められています。