ディベートって?


※このページでは、ディベートを経験したことのない人のために、簡単な解説を行ないます。すでに何らかのスタイルで試合を経験したことのある人は、このページをとばして次へ進んで下さい。


 ディベートって何でしょう? みんなで集まって話し合うこと? 言いたい放題の口げんか? なんとなく「議論を戦わせるんだな」とわかっていても、具体的なイメージを持っている人は少ないかもしれません。ディベートは、一言で表すと「第3者を説得するゲーム」です。ゲームなので、サッカーや将棋と同様、きちんとしたルールがあり、勝ち負けがあります。

 実際の試合では、まず最初に何らかのテーマ(たとえば、「のび太はドラえもんを22世紀に返品すべきである」「日本は原発を全廃すべきである」など)を与えられ、その是非について肯定側・否定側に別れ、ジャッジ(審判)を説得すべく交互に議論を展開することになります。

 ディベートの目的は、第3者であるジャッジの「説得」であって、論破・圧倒・翻弄することではありません。このため、きちんと理由・筋道をつけて自分たちの主張を正確に相手に伝え、納得してもらうことが必要になります。また、場合によっては論文や文献を調べ、専門家の発言を引用することも有効でしょう。

 こうしたディベートにおける論証・説得の過程を通じて、一般に以下のような能力が身に付くとされています。 また、相手に勝とうと努力していく中で、ゲームの緊張感を楽しみながら、自然とこうした能力を身につけられるのも、ディベートの魅力の一つです。

 以下の章では、これからディベートを始めようとする皆さんのために、どのような形で試合が進んでいくのか、またどのように進めればよいのかを、少しずつご紹介していくことにしましょう。



基本的なルール


 この後のページで紹介するように、ひとくちに「ディベート」といっても、様々なスタイル・ルールが存在します。ただ、細かい違いはあるものの、どのスタイルでも根底にある考え方・基本的なルールは共通している部分が多いので、この章ではこうした特定のスタイルに偏らない、一般的なルールを解説していくことにします。


□ディベートにおける目標

 ディベートの試合は、肯定側・否定側の選手と、試合の勝敗を決めるジャッジ(審判)の3者から成り立ちます。たいていの場合は、決められた人数のチーム同士の対戦です。ジャッジは基本的に奇数で、互いに判定について協議することはせず、多数決で勝敗を決めます。
 試合での選手の目的は、決して「対戦相手を言い負かす」ことではありません。議論を通じて「第3者であるジャッジ(審判)を説得する」こと、これが最大にして唯一の目標となります。


□選手とジャッジの配置

 あとで紹介する例外(質疑やPoint of Information)を除いて、すべてのスピーチは正面の論壇に立って、ジャッジの方を向いて行います。説得の対象は対戦相手ではなく、ジャッジなんだということを意識しながら話すと効果的です。


□試合の流れ

 まず最初に、話し合うべき論題を決めましょう。多くの大会では、日本政府の政策に関するものが選ばれます。
  • 日本はすべての原子力発電を代替発電に切り替えるべきである。是か非か。(ディベート甲子園 00年度高校論題)
  • 日本・中国・韓国および全ASEAN加盟国は、自国通貨を廃止し、共通通貨を採用すべきである。(日本ディベート協会 04年度前期推薦論題)
  • 当議会は、子供にとって学びよりも遊びの方が大切である、と信ずる。(日本パーラメンタリーディベート連盟 第3回JPDU大会)
同じ論題で何度もくりかえし試合をすれば、そのぶん議論が深まりますし、逆に毎試合ちがう論題を使えば、即興力を鍛えることができます。

 この論題をもとに、選手は肯定・否定の2つに別れ、ジャッジを説得すべく交互に議論を展開することになります。この際、どちらのチームが肯定側・否定側になるのかは、各試合の直前にランダムに決められます。

ディベートの試合は、自分の個人的な主義主張を訴える場ではない、という点に注意してください。論題によっては、「自分は絶対にこの論題には賛成(あるいは反対)できない!」と感じることもあるかもしれません。けれども、あえて逆の立場に立って論題を見つめ直してみることで、必ず新しい発見があるはずです。肯定・否定双方の立場から客観的に論題を検証していくことで、ひいては自分の視点そのものを深めることにもつながるのです。

 ある政策をとるべきかどうか論じたいとき、どうすれば最もわかりやすく人を説得できるでしょうか。たとえば、テレビショッピングでの健康食品の宣伝を考えてみましょう。販売係は、「病気がよくなる」「美容にいい」「精力増強」など、その商品を買えばいかにすばらしいことがおこるのかを、言葉巧みにあなたに訴えます。一方、テレビの前のあなたは、「そうはいっても、1パック2万円じゃ他に何も買えなくなるわ」「変な副作用でも起こったらどうするのかしら」「家族に馬鹿にされるかも」と色々なマイナス面も考え、両方を比べて「やっぱり買う必要はないわね」との結論に至ります。

 ディベートにおける説得の基本も、これとほとんど同じです。ある政策を人に納得させたいときには、その政策から予想される「良いこと(メリット)」を示してやるのが、もっともわかりやすい方法になります。逆に、ある政策を否定したいときには、その政策から予想される「悪いこと(デメリット)」を示してやればいいのです。

 実際の試合でも、肯定側は最初のスピーチでまずメリットを、否定側はデメリットをそれぞれ説明します。たとえば、「日本は原発を全廃すべきだ」という論題なら、
  • メリット :爆発事故で人がたくさん死ぬ危険がなくなる
  • デメリット:電気が足りなくなって停電する
といった具合です。

 各チームは自分たちのメリット・デメリットを守りつつ相手の議論に対して反論・再反論を繰り返し、すべてのスピーチが終わった時点で、ジャッジがメリットとデメリットのどちらが大きく残ったのかを判断し、勝敗を決定します(Parliamentary Debateというスタイルでは、議論内容以外にマナーなども説得の要素として考慮され、勝敗に影響します)。

 なお、ディベートには「引き分け」という判定はありません。仮にメリットとデメリットの大きさが同じだった場合、「あえてその政策を導入する意味はない」とみなされ、否定側の勝ちになります。


□試合の形式

 ディベートでは、ゲームとしての公平性を保つ目的から、各選手のスピーチの順番・役割・時間があらかじめ決められています。目的によって様々なスタイルが存在しますが、一人の選手が話しているあいだは、基本的に他の選手は発言してはいけません。試合でのスピーチは、前半の「立論」と、後半の「反駁」に分けることができます。代表的なスタイルを例にとってみると、以下のようになっています。


 基本的に、立論は「材料を出す場所」、反駁は「材料をまとめてシナリオを組み上げる場所」という位置づけになります。このため、メリット・デメリットや、それに対する反論、といった議論の材料は、通常はすべて立論の段階で出し切ってしまい、反駁に入ってからは、もっぱらそれまでに出された様々な議論を比べたりつなげたりしながら、試合をまとめる作業に専念します。

 なお、反駁の段階に入ってから新しいメリット・デメリットや反論を出しても、相手に再反論の機会がほとんど残されておらず、不公平なうえに議論が深まらないことから、通常は「ニューアーギュメント」という反則となり、判定には考慮してもらえません。ただし、相手が直前のスピーチで新しく出してきた議論に対してだけは、反駁の段階に入っていても新たな反論をしていいことになっています。

 また、立論の段階で相手の議論を聞き落とすと、話が噛み合ないなど、その後の試合展開に大きな影響が出てしまうので、多くの場合、各立論のあとには「質疑(Q&A)」という時間がそれぞれ設けられています。この時間だけは直前の立論担当者に直接1対1で質問し、回答を得ることができます(なお、質疑の代わりに「Point of Information」というシステムを採用しているスタイルもあり、この場合は相手の立論のスピーチ中に直接質問を投げかけることが可能です)。こうした制度があるのは立論のあいだだけで、反駁の段階に入ると、質疑もPoint of Informationも認められていません。

 この他、多くのスタイルでは、あらかじめ決められた時間だけ、試合中に準備時間を取ることが認められています。





最初の立論でやること


 国内で行なわれているディベートには、大きく分けて「Academic Debate」と「Parliamentary Debate」の2つの流れがあるのですが、前者の場合は大会の何週間・何ヶ月も前から論題が予告されているので、十分な準備・調査をした上で、原稿をつくって試合に臨むことができます。一方、後者の場合は論題の発表が試合の15分〜30分前と直前に行なわれるため、議論の骨組みだけ考えて、あとは即興で試合をしなければなりません。

 試合全体のたたき台となる議論を出さなければならないため、各スピーチのなかでも、最初の立論はもっとも重要な役割を担っています。一般に、(特に肯定側の)最初の立論で以下の3つを示せば、ひとまず試合は問題なく進むとされています。

□論題の解釈を示す

「俺は苦手なものがないんだ」
「でもこの前、犬はダメっていってたじゃない」
「いや、食べ物の話なんだけど。。。」

 論題中に解釈の難しい、あるいはまぎらわしい言葉が含まれていた場合、そのままにしておくと、肯定側と否定側で解釈が違ってあとで大混乱・・・などということになりかねません。こうした事態を防ぐため、あらかじめ肯定側は、誤解の可能性のある単語の定義を立論中で示しておきます。たとえば、「積極的安楽死」→「安らかな死を迎えるため、第三者によって自分を殺害させること」といった具合です。

 一方、否定側は肯定側の定義に従うこととされ、通常は新たに定義を示す必要はありません。ただし、肯定側が出した解釈が常識的な受け取り方からあまりに外れている場合(たとえば、「日本は死刑制度を廃止すべき」を人間の死刑制度ではなく、家畜・ペットの薬殺処分と解釈するなど)には、改めて肯定側に代わる別のまっとうな定義を示して、「彼らは論題を肯定していない!」と主張することが可能です。こうした、論題の解釈に関する議論は「トピカリティ(Topicality)」と呼ばれます。ただ、普通のまっとうな試合をしている限りは、こうした議論にお目にかかることは少ないはずです。


□プランを示す

「決めたぞ、俺は消費税を増税する!お前たち、消費税を増税しろ」
「お言葉ですが、首相。いきなりそれだけ言われても我々は困ってしまいます」
「何だと」
「まず、何パーセント増税するのか言っていただかないと」
「なるほど」
「次に、いつ増税するのかも重要です」
「ふむふむ」
「それに、増税すれば国民の負担は増えますから、他の方法で何とかその負担を軽くしてやるのも一つの策かと・・・」
「そうか、政策ひとつ考えるのでも、なかなか簡単にはいかないのだな」

 一般に論題は何らかの政策を示していますが、多くの場合、そのままでは抽象的すぎて実行に移せないことがほとんどです。このため、肯定側は「プラン」という形で、論題を実現するための具体的な政策を補ってやる必要があります。たとえば「原発全廃」であれば、何年後に廃止するのか、代わりの電力は何で補うのか、といった具合です。多くのスタイルでは、肯定側は、必ず立論の中でプランを示さなければなりません。

 一方、否定側のプラン(スタンス)は、通常は現状維持となります。ただしスタイルによっては、否定側からも代替案を示せる、「カウンタープラン」というシステムが認められている場合もあります。たとえば、肯定側が「子供に携帯電話を持たせるのはよくないから、これを全面的に禁止しよう」といってきたとき、「全面禁止は厳しすぎる。学校の許可があった場合だけは認めることにしよう」という代替案を示せば、これがカウンタープランになります。

 
□メリット/デメリットを示す

 論題から起こる「良いこと」がメリット、「悪いこと」がデメリットでした。議論のたたき台として、立論中では、肯定側はメリットを、否定側はデメリットを示すことになります。一般に、メリット(デメリット)の証明には、以下の3つの要素を示せばよい、とされています。

1、現状分析

2、発生過程

3、重要性・深刻性


メリットの場合、

  • まず現状に何か問題があることを指摘し(現状分析)
  • それがプランによって解決するシナリオを示して(発生過程)
  • 最後にその問題を解決できることがいかに重要かを強調する(重要性)

という流れになります。

逆にデメリットの場合には、

  • まず現状に特に問題がない、あるいは現状が比較的マシであることを指摘し(現状分析)
  • その現状がプラン後にどう悪化するのかシナリオを示して(発生過程)
  • 最後に新たに生まれた問題がいかに深刻かを強調する(深刻性)

ということになります。

このままではわかりにくいので、もう少し具体例を見ることにしましょう。たとえば、論題が「ゴミの有料化」であれば、メリットは、

■メリット:「ゴミの減少」

a) 現状分析

 いま、ほとんどの町ではゴミを出すのはタダ。従って、好きなだけゴミを捨てられる。
 その結果、ゴミの量は増加の一途をたどり、以下のような問題が起こっている。

  1、ゴミの埋め立て地が足りない。
  2、焼却施設の能力を超えた量のゴミを無理矢理燃やしているので、温度が上がらず、ダイオキシンが発生している。


b) 発生過程

 ゴミを有料化すれば、人々はお金を払いたくないので、できるだけゴミを出さないように努力する。
 実際に有料化をした伊達市では、ゴミは大幅に減っている。

 この結果、1のゴミ埋め立て地の不足は軽減される。
さらに焼却施設でも余裕ができるので、ゴミをしっかりと高温で燃やすことができ、2のダイオキシンの問題も解決する。

c) 重要性

 1、ごみの埋め立て地がいっぱいになれば、あとはあふれるしかない。不衛生な環境では病気が流行しやすくなり、死者も出る。
 2、ダイオキシンはたった1グラムで何万人もの致死量に相当する猛毒。これを出さないことは極めて重要。

同様に、デメリットは、

■デメリット1:「自家焼却の増加」

a) 現状分析

 いま、ほとんどの町ではゴミを出すのはタダなので、人々は特に意識せず、ゴミを指定された回収場所に出している。

b) 発生過程

 ゴミを有料化すると、人々はお金を払いたくないため、なるべく自分の家でゴミを燃やし、外に出すゴミを減らそうとする。

c) 深刻性

 自家用の焼却炉は規模が小さいために十分に温度が上がらず、ダイオキシンの発生につながる。ダイオキシンはたった1グラムで何万人もの致死量に相当する猛毒で、これが民家のすぐ近くで発生する、というのは極めて危険。


■デメリット2:「不法投棄の増加」

a) 現状分析

 いま、ほとんどの町ではゴミを出すのはタダなので、人々は特に意識せず、ゴミを指定された回収場所に出している。

b) 発生過程

 ゴミを有料化すると、人々はお金を払いたくないため、法で定められた回収場所以外の場所にゴミを違法に投棄する。

c) 深刻性

 不法投棄の増加は街の衛生状態を悪化させ、伝染病のまん延、ひいては死者の発生をもたらす。

という具合になります。




その後の流れ


 メリット・デメリットを互いに出した後は、基本的にそれに対する反論・再反論の応酬が続くことになります。なお、多くのスタイルでは、議論の証明の過程で、信憑性を高めるために専門家の発言を「証拠資料」として引用することが認められています。

 こうした試合の流れの中で生み出される、どういう部分を意識してメリットを作ればジャッジの印象が良くなるのか、どうすれば上手く相手の議論を切り崩せるのか、どういう戦略をとれば逃げ切れるのか、といった駆け引きが、まさにディベートの醍醐味だといえます。ここまでの話だけではやや抽象的なので、少しでも興味を持った方は、ぜひ実際の試合をご覧になってください。比較的高いレベルの日本語大会の速記録が、ネット上で公開されています。

 ここで紹介したのは、本当にディベートの入り口の入り口の部分です。ディベートは、きちんとステップさえ踏めば誰にでもできるものなので、あまり構えすぎず、気楽に挑戦してみてください。さらに勉強したい方は、上の「Download」「入門・ロジック」から、適切なテキストをダウンロードできます。

※このページの内容は、あるディベート関係のNPOに提供したテキストを、一般向けに改訂したものです。

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